サラマンダー・スパイラル ~過渡期~

サラマンダー・スパイラル

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駅の掲示板の前に居るにしま・・・。

 

みなみはポンを連れてどこかに別の場所へ行ってしまいました。

 

この掲示板には、アルバイトを主とした求人情報が載っています。このオーラス興業の求人チラシも掲示させて貰っていました。

 

掲示板を見に来た人に声をかけてビラを配り、毎日行われているオーラスの登録説明会に来てもらうというやり方で人材を確保する営業作戦でした。どうやらみなみとここの駅員はズブズブの仲で、駅内での規定範囲内の活動許可は直ぐにおりました。

 

しかし・・・この掲示板の位置・・・。

 

 

滅茶苦茶場所が悪い・・・・。

 

ちゃんと駅内にはあるのですが、一番端っこの、あまりにも人通りが少ない、とても見えにくい場所にありました。

 

駅の隣接施設の求人がメインで貼りだされており、その中にオーラスのチラシを貼らせて貰っていました。ここでもみなみの営業活動が見えました。

 

 

しかし多分ですが・・・今日の俺は捨て駒です・・・。

 

 

とてもじゃありませんが、ここで人が掴まるとは思えないのです・・・。

 

みなみとポンは一体どこに行ってしまったのでしょうか・・・。

 

まだ2ヵ月目の俺を置いて・・・みなみ先輩とポン後輩はどこへ行ってしまったのでしょうか・・・。

 

 

 

一方・・・・・

 

駅前のファミレスにて・・・・。

 

みなみ「いいかポン、先ずお礼と謝罪な。子どもの頃習ったろ?・・・ポンみたいな奴はこれが出来ないと様々な所で苦労する事になる。特にサービス業は必須だ。演技だとしてもこれが出来ないとマズい。・・・別にオーラスに限った事じゃねぇ、いくら仕事が出来てもこれが出来ないと会社でも使いにくくて、損する可能性が増える。やり方次第では完全な×を△に変えることも出来るんだ。いいだろ。」

 

ポン「はぁーい!!」

 

みなみ「次に相手が何をしたいか・・・そして何を考えてるか・・・・。」

 

ポン「はぁーい!!」

 

みなみ「はぁーい!!っていうポンの返事は良いけど、使いどころ間違えるなよ?変な人だと思われるぞ。」

 

ポン「はぁーい!!」

 

みなみ「今のは良い。」

 

ポン「はぁーい!!」

 

みなみ「それでな・・・・。」

 

にしまに勧誘の仕事を任せて、コーヒーを飲みながらコミュニケーションのレクチャーをしていました。

 

するとそこへ幹部のハツモトがやってきました。

 

ハツモト「おうみなみ、お前の車が横のパーキングで見えたから取引先の事務所に行く次いでに寄ってみた。・・・ポン、しっかりみなみから学べよ?期待してるからな俺は。」

 

ハツモトは優しい笑顔でポンの肩に手を乗せました。

 

ポン「はぁーい!!ハツモトさんお久しぶりです!!頑張ります!」

 

ハツモトさんはコーヒーを頼み、隣にある2人掛けの席に座りました。。

 

みなみ「・・・・あそこ、見えます?」

 

みなみが窓の外を指さします。

 

ハツモト「・・・・・んんん?・・・・にしま?・・・あれにしまじゃねぇか。」

 

駅の端っこでキョロキョロし、挙動不審のにしま(入社2ヵ月目)が動いていました・・・・・。

 

ハツモト「・・・何を小さくやってんだあいつは(笑)ちゃんと許可取ってんだろ?・・・あれじゃあなかなかつかまらないぞ・・・しかも今回探してるの女性でしょ?」

 

みなみ「はい。ホントは一緒にやろうと思ったんですが、今日は先ずポンの教育を徹底的にしろとチュンさんに言われたので、とりあえず今日の所はにしまに勧誘の方は任せようと思ってます。まぁ、にしまはこういう事するの初日ですからあんなもんかもしれませんね、にしまの実力があの程度で無い事は分かっていますが・・・・今日は駄目かもしれません。度胸はかなりある方の人間なんですけどね。」

 

 

ハツモト「ふーん・・・・・」

 

 

その後も無言で外を眺めながらコーヒーを飲むハツモト・・・。

 

 

みなみ「ポン・・・それでさ・・・」

 

ポン「はぁーい!!!」

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

 

 

4時間が経過しました。夕方になり、辺りが少し暗くなってきました。

 

すると40代位の女性がようやく1人、掲示板を見に来てくれました。

 

直ぐに走って掲示板に戻ります。

 

にしま「・・こんにちわっ!!」

 

女性「わぁ!!・・・・何?!いきなり!!」

 

掲示板から少し離れた所で道行く人に声をかけていた為、慌てて走って行った所、逆にお客さんを脅かしてしまう結果になってしまいました。

 

にしま「どうもすいません。・・・あの・・・求人お探しでしたら・・・・工場でのお仕事はいかがでしょうか?赤ちゃん用品を作る工場なんですが・・・・。」

 

女性は無視してどこかに行ってしまいました・・・・。

 

 

ああ・・・しまったぁ・・・・。

 

確かにスーツ姿の男性が突然遠くから走ってやってきたら、ビックリするのは当たり前です。

 

やり方間違えたなぁ・・・・・。

 

向いてないのかなぁ・・・・。

 

しかし、一度志した仕事です・・・。こんな事で諦めてはいけません・・・。向いていようが向いてなかろうが、こんな所で引き下がっていてはどこの会社に行っても通用しません・・・。

 

この女性以外にも、何人か声掛けはしましたが、ほぼ無視・・・。沢山用意したチラシもほんの数枚しか渡すことが出来ませんでした。

 

みなみ「よぉにしま。成果は上がったか?」

 

ニヤニヤしながら、みなみが歩いてやってきました。

 

にしま「いやぁ、はじめた時は少し自信あったんだけど結果的に全然駄目だった・・・・。声掛けって難しいなぁ・・・・。はぁ・・・・今日はやけに疲れた・・・。」

 

みなみ「ついさっき営業先のハツモトさんから連絡あって、一瞬で2人ほど決まったらしい。・・・・今日はもういいや、帰ろうぜ。さっき駅の人にこれで引き上げると言っておいたから。」

 

俺は4時間駅を歩き回って坊主・・・。ハツモトさんは自分の営業先の退職者に声をかけ、2分の2で人材を見つけていました・・・・。

 

 

にしま「凄いな・・・・。その考えが浮かぶのが凄い・・・。・・・ハツモトさん見た目も爽やかだもんなぁ。得だよなぁ・・・。」

 

ポン「はぁーい!!確かにですね!優しい人でーす!!・・・・みなみさん、これからどこに行くんでしたっけ?」

 

みなみ「ハツモトさんが歓迎会やってくれるらしいから、このまま夕飯食べに行こう。」

 

にしま「そ、そういえばそうだった!!・・・・。・・急ごう、ポン!!」

 

ポン「はぁーい!!」

 

 

そのまま繁華街の外れにある和食料理店に爆走して向かいました。

 

車を近くのコインパーキングに停めて走りだす3人。

 

 

 

平和」と書かれた古めかしい看板が左右の木々に囲まれていました。

 

恐らく老舗でしょう・・・。これは高そうだな・・・・。

 

引き戸を開けると・・・・

 

 

ハク「みんなお疲れ様!!ハツモトさんついさっき来られたよ!!」

 

 

引き戸を開けた先には簪をつけた白い和服姿のハクが居ました・・・・・。

 

 

お世辞ではなく、とても似合っていました。

 

 

にしま「・・え?!またハク!?ここでも働いてるの?・・・・」

 

ハク「そうだよ!みなみにこの前紹介して貰った!!」

 

和服がとても似合っていました。

 

しかし・・・・初めて会った喫茶店のオセローではベスト付のカフェ制服、焼き肉屋のチャン太では黒いエプロン姿、今回の和食屋では白い和服。

 

 

みなみはハクにコスプレをさせて遊んでいるのでしょうか?・・・・・・。

 

みなみ「ハク、慣れたのかよ?ここ」

 

ハク「すこーし堅いお店だから、物静かに仕事をやるようにしたら慣れてきた!今日みなみから予約が入ってようやくこのお店で本気で話せる日が来た!って思ったよ!!」

 

ハクなりに工夫をしながら仕事にのぞんでいるようでした。

 

一番奥の座敷に案内され、ふすまを開けるとハツモトが座っていました。

 

みなみ・にしま・ポン「お疲れ様です!!遅くなって申し訳ありません!!」

 

ハツモト「よぉお疲れ!!いやいいよ時間通りだろ、今日は飲もう!!ここに来る前にチュンさんと順子さん誘ったけど用事が有るって断られたわ。どうしても久々に全員集合したかったんだけど・・・・残念!!」

 

いつもハツモトさんがここで食べているという、刺身と冷酒をハクが持ってきました。

 

乾杯をしました。

 

ハツモト「ようこそオーラス興業へ!」

 

かんぱーい♪・・・・・・

 

 

・・・・・・・・

 

・・・・・・・・

 

にしま「・・・・・うまっ!舌が肥えますわ(笑)」

 

ポン「はぁーい!!僕はお刺身なんて久しぶりです!!やっと食べられるぞ!!」

 

ハクが入り口付近で正座しながら恐る恐る話に入ってきます。

 

ハク「ハツモトさん!・・・あの・・・私もお酒飲みたいんだけど・・・・。」

 

ハツモト「おお・・・今日はついてくれるんだな!」

 

ハツモトはハク用のお猪口に冷酒を入れました。

 

ハク「女将さんから、今日はここに居るように言われました!」

 

ハツモト「しかしハク・・・和服がよく似合ってるじゃないか!!・・・なぁみなみ!!そう思わない?!」

 

みなみ「はい?」

 

みなみを軽く睨むハク・・・・。

 

ハク「そう言ってくれるのはハツモトさんだけですよ!(笑)みなみもにしまもポンちゃんも、誰も私にそういう励ましの言葉を言ってくれません!!(笑)表現が難しいんですけど、パワハラに近いです!!私にとって励ましの言葉をかけないのはパワハラです!!(笑)」

 

ポン「はぁーい!!似合ってまーす!!」

 

みなみ「なんでそんな事言わないといけないんだよ!(笑)」

 

ハク「いいじゃん!言ってくれたって!!」

 

にしま「いやいやみなみ待て、似合ってると思ったよ?!でもそんな事堂々と言ったらスケベ野郎だと思われるじゃねーか!(笑)」

 

ハク「良いって別に!言いなさいよ!!言いまくっていいから!!堂々と言ったらスケベってハツモトさんがスケベみたいじゃない!!(笑)」

 

ハツモト「・・は?!変な意味は一切ないから!!」

 

手を大きく横に振るハツモト・・・・。

 

言いまくるって・・・・。言いまくる事で価値がグングン下がっていくような気がするのですが気のせいでしょうか・・・。

 

ハツモト「俺はわからんけど、今の時代そういう事言うとセクハラとして捉えられちゃう事があるの?でもハクの場合・・・・言わなかったら逆にパワハラになるって事は、言いまくらないといけないって事だよな(笑)・・・マネージメントが難しい時代になってしまったなぁホントに・・・。」

 

みなみ「ハクの捉え方次第ですが、パワハラはマジで言い過ぎですよ!そんな気は更々ない!!」

 

 

全員席に着いた所で、今までもオーラス興業には様々な人間が入れ替わり立ち替わりで入社していたとハツモトさんから話がありました。

 

男性も女性も様々なキャラクターの人間が居たそうでした。

 

この会社にはカラーというものが有り、それに合わない人は直ぐに辞めてしまうそうでした。

 

 

みなみとたまに夜、一緒に住んでいるアパートで話す事がありましたが、このオーラス興業という会社は少数精鋭でやっている所があり、どこか他の社員達とは違う突出した才能が無いと自分から直ぐに去っていくと言っていました。同じだと変わりが効いてしまい、使いどころが無くなるそうでした。

 

どこかオールマイティの人間を好まない風習があると言っていました。というか・・・その考えだと・・・・・俺自身にそういう才能があると到底思えないのですが・・・。俺はこの会社で一体何が出来るのでしょうか・・・・。

 

ポン「お刺身が美味しい!!」

 

 

ハツモト「・・・少し前に、社員を増やそうとチュンさんと二人で話し合った事があったんだよ。うちの事務所も営業活動の甲斐あってデカくなった。いよいよ人手を増やす時じゃないかって事でな。」

 

煙草を吹かしながら話していました。

 

にしま「そういう話があったんですね。常にハツモトさん達は会社の事を考えて居られると思います。」

 

ハツモト「みなみと順子さんの意見も当然聞いた。・・・今うちの会社に登録して貰っている人間数百名の中名前が浮上したのが、3名。・・・にしまハクポンの3人だ。それ以外の代わりとなる補欠は無し。この3人を確実に入社させる事で全員と話がついたんだ。」

 

ハク「え?!私も?!」

 

にしま「ホントですか?・・・・」

 

ポン「はぁーい!!」

 

ハツモト「そうだ、お前ら3人は選ばれたんだ。ようやく俺達が思う役者が揃った。これからなんだぜ、本当のオーラス興業は・・・。」

 

みなみ「意味があるんだよ。ハクも今出先で主にやって貰ってるけど、いつでも事務所勤務に戻っていいからな。順子さん忙しくて毎日ヒーヒー言ってるから(笑)」

 

 

選ばれた・・・。この言葉に俺達は緊張・・・。そして奮い立ちました・・・。

 

これまで散々人を変え、部署を変え、やり方を変え、色々な事を試行錯誤しながらやってきたそうでした。しかし運営側の思いが伝わらず、考えが足りず・・・・いよいよ勝負に出たそうでした。

 

 

今まで失敗した人事経験は山ほどあり、それについて振り返り、全員で会議を行ったそうでした。

 

他の社員と違う技能があり、その技能を活かして自分や他の社員を守れるか、それが適材適所なのかどうか、性格、経歴、明瞭さ、そしてその与えられたポジションに居て、この会社の看板を守っていけるかどうか

 

ハツモトさんから様々な切り口で話がありました。

 

この人は普段は爽やかで、様々な難しい案件を飄々とこなしているように見えましたが・・・かなり人間を見ています・・・・。もっと言うと、カメレオンのように相手に合わせて自分の性格とキャラクターを変えてきます。とてつもないコミュニケーションの努力家が私達の上司だったのでした。

 

ハツモトさんは直ぐに人が辞めていく会社の人事に対してかなり不満があり、入社してからずっとその事ばかり考えていたと言っていました。

 

それなら、派遣の登録人数が急激に増えてきたこのタイミングで、こちらから一方的に選んで指名する方式になったそうでした。

 

 

にしま「今日、駅で人材獲得の為に様々な人に声をかけていました。でも上手く行きませんでした・・・。なんとかしたくて気合を入れてやっていましたが、それが空回りしてしまって・・・。俺は向いているのかな?って思ってしまいました。」

 

ハツモト「・・・・・・・」

 

ハク「にしま、それ良かったら私手伝おうか?だいぶ私自信あるけど。」

 

ハクはやる気満々でした。

 

みなみ「まだこういう事に関しては、初日だにしま。気にする歴じゃないだろ。俺もまだ具体的なやり方を教えてない状態だし。」

 

ポン「難しいですよ!にしまさん!!」

 

ふんどしを締めなおしてやるしかありません・・・。

 

にしま「よーし明日また、頑張るわ!!1ヵ月もすれば慣れるはず!!」

 

ハツモト「あー、長時間やってたな(笑)・・・・。声をかけやすそうな人に話しかけてたな(笑)」

 

ハツモトさんにはお見通しでした・・・。それは自分でもわかっていました・・・・。募集要項に合う人間全員に声をかけないとおかしいのです。この人に声をかける、この人には声をかけないという区別はあの場ではおかしいのです。

 

 

 

ハツモト「んんん?・・1ヵ月?ちょっとお前今1ヵ月って言った?・・・・今出来ない事が1ヵ月後に本当に出来るようになるの?・・・どうなんだ?にしま。」

 

ハツモトが急ににしまの言葉に反応しました。

 

にしま「え・・・すいません、単純にその頃には慣れるかと思い言いました。」

 

ハツモト「多分1ヵ月経っても出来ないような気がするな。1ヵ月、・・・いや何年も同じことをやるんだろ?・・・そんな顔してるように見えるぞ今のにしまは。・・・・今すぐにでも出来るやり方を考えないと。・・・ちょっとやり方変えてみよう。えー-っとな・・・ちょっとこれは会社全体の問題だ、たまたま人数も居るし、今から少し全員で意見を出し合おう。」

 

 

全員「はい!!」

 

にしま(そうか・・・ただがむしゃらにやってもしょうがないのか・・・。期限もある・・。その事を俺は度外視していたんだな・・・。今出来ない事が急に出来るはずないか・・・。本当に俺は考えが素人だ・・・。切り替えよう、気持ちを切り替えよう・・・・・。)

 

 

小さい会社・・・・失礼ながらそう思っていました・・・。

 

しかしオーラス興業の事務所の上司は志がある大きな人間でした。

 

オーラス興業は会社が出来てもぉ何十年も経ちますが、自分が思う本当の意味でのスタートラインに今日ようやく立つ事が出来たと、ハツモトさんは帰り際に言っていました。

 

ここまで様々な思いや憤りを感じる叫び、そして誰にも話せない本音を話して貰ったからには、期待に応えなくてはいけません。そうでなくては俺達は選ばれた人間ではありません。

 

ポンは以前に失敗をしてしまいましたが、今日再起を果たしました。ハツモトさんやチュンさんからしたら、また戻ってくることを予想していたかもしれません。2人の思いがポンに伝わっている自信があったのです。

 

 

俺もハクもポンも全員、この門をくぐればこれから待ち受ける危ない橋を何度も渡らないといけない事は分かっています。

 

それでも1人では無力な自分達を何百人の中から選んでくれたこの人の片腕になろうと、この人達と肩を並べて共に「世間を揺るがす、ここでしか出来ない突き抜けるような仕事」を自分のたった一度きりの人生を賭けてやってやると、今日思う事が出来ました。

 

ようやくここからオーラス興業が始まるのです。

 

今日はその記念日なのでした。

 

 

3人(やってやる・・・・。多少社会に盾突いてでも・・・この会社で成り上がってやる・・・・。)

 

 

みなみ「入社おめでとう。」

 

 

続く

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