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それから、ああでもないこうでもないと、暫く仕事についての話をみなみとしていましたが、結局その日は他の社員は誰も帰って来ませんでした。
チュンさんも長引いたので直帰すると連絡が有りました。
みなみ「店閉めるぞぉ」
鍵をして事務所から退出する2人。
明日もまたここに来るのか・・・頑張るぞぉ・・・。
みなみが入社祝いで焼き肉を奢ってくれる事になりました。
みなみ「こういう事はホントはみんなですべきだけど、見事に全員居ないからな。まぁ昼飯と同様2人で行こう。」
にしま「いいの?ありがとう。」
にしま(よーし、俺の2か月工場勤務のピンハネ代を焼き肉で返してもらうからな)
みなみ「いいよいいよ(笑)奢ってやるよ俺のポケットマネーで。」
にしま「それは元々俺の金だろ」
この業界はそんなもんだと言うのです。自分が昨日までの工場勤務で働くことで、この会社にお金を落としている事を今日知りました。
それでも勤務時間数がそれなりにあった為、かなりの給料が出ました。
朝9時から21時位まで(定時は18時)強制残業で工場で働き、23時から配送センターで仕分けの仕事を2時間~3時間ほどやりました。
工場が夜勤の週は、仕分けの仕事はありませんでしたが、18時から朝の9時過ぎまでの長いシフトでした。
詳しくは全く分からないのですが、労働基準法は大丈夫でしょうか。・・・・でもそれを完璧に守っていたら仕事が出来なくなるかもしれません。
日曜と祝日が休みでしたが、休日はランニングや昔やっていたファミコンなどをして時間を潰していました。
バイトは学生の頃に少ししていましたが、働くことが楽しかったです。虚空で、力が有り余ってしまっていた毎日から抜け出したのです。
体が疲れてはいましたが、気分は何故か物凄くスッキリしていました。
何よりも2ヵ月後にはみなみの会社で正式に働くことが出来るし、給料があるので自分の好きなものを買って食べることが出来るのです。両親や兄弟にも恩返しができるのです。
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繁華街にある、焼き肉屋「チャン太」に到着しました。
市内へ遊びに来た時に何度か見かけた事がある焼き肉屋でしたが、入って食事をするのは初めてでした。焼き肉のいい匂いが店外そこらじゅうに立ち込めていました。
引き戸を開けると・・・そこには・・・・・・
「いらっしゃいませー・・・・あら?みなみとにしま!」
聞いたことのある声だと思ったら、エプロン姿のハクが居ました。なんとここにもハクが居ました。
にしま「・・・え?!ハクってここでも働いてんだ?!」
ハク「そうだよ!今日はオセロー終わりで直ぐにここだから。」
しかしよく働くなぁ・・・・。みなみあいつ・・何もせずに金が入ってくるじゃねぇか・・・・・。
大将「あら?みなみくん。いつもありがとう。」
親しげに厨房から大将が声をかけてきました。
みなみ「大将どうも。流行ってるねぇ。ほぼ満席。」
大将「ハクちゃんがうちに来てからね、お目当てでみんな来てくれてるんだよ。」
みなみ「それはよかった。」
大将「奥の席空いてるから、使ってよ。ハクちゃん!みなみくん達案内してあげて!!」
ハク「はーい」
ハクは既にお盆におしぼりとお冷を載せて後ろに立っていました。
にしま「早いな・・・・・」
奥の小さな鉄板を囲んで、座りました。
ビールと、適当な肉を頼んで乾杯しました。
みなみ【ここでも働いてるハクを見て「いいなぁ、みなみは何もせずに金が入ってくる」と思っただろ?】
にしま「思ったよ。何故分かった?(笑)」
みなみ「俺はそういうの直ぐに分かるんだよ(笑)信頼関係ってのはにしまが思うより難しくて、なかなか作れないんだ。あんまりほったらかしにすると派遣先の仕事に来なくなってしまう事もあるんだわ。」
にしま「へぇーそんなもんなのか。給料貰えるんだから行くもんだと思ってたけど。」
みなみ「いくらか入ってくるお金で取引先で物を買ったり、こうやって働きぶりを見に来たりな。」
にしま「そういう付き合いは増えるんだな。」
みなみ「よく現場に出てくれてる連中を集めて飲み会行ったり、たまに送迎したり悩み聞いてやったりな。水やりや餌やりが大変なんだよ(笑)じゃないと直ぐに辞めちまう。派遣の会社なんかオーラスだけじゃなくて他にも山ほどあるだろう。最悪そっちに取られてしまうんだ。」
にしま「そういう事全然得意じゃないのに、よくやってるな(笑)」
みなみ「ホントだよ、滅茶苦茶無理してやってるわ(笑)心の中で人の悩みを馬鹿にしている自分を責めながら・・・・。でもな・・・・人数がそれなりに多くなると、それ以上に入ってくるから、やらなきゃいけないよな。・・・じきに分かるよ。」
ビールを追加しようと呼び鈴を押そうとした所、ハクが肉を運んできました。
ハク「みなみ!今日私ここで終わりだからこの後飲みに行こうよ!私も久々に飲みたいわ!」
みなみ「いいよ、その代わりちゃんと働けよ、今日も明日も明後日も。・・・あーあ、お前は元々うちで事務員で働く予定だったのに・・・・」
元々みなみは、ハクを事務方の正社員として会社に採用する予定だったそうです。今現在事務のおばちゃんを1人雇っているそうですが、孫の面倒を見ることが忙しくなり、社員→嘱託→パートと雇用形態が変更となり、事務の担い手が足りていない様子でした。
にしま「ハクもうちの会社で働いたらいいのに。みなみと信頼関係できてるだろ。嫌な人間でも居ったんかな?・・・あの草水とかいう人?それとも、チュンさん?」
ハク「いやいや、凄くみんなよくしてくれてるよ!チュンさんも私が働いてると必ず声をかけてくるよ!草水さんは堅いけど父親に似てて、全然私の中ではOKよ、みなみは滅茶苦茶嫌だろうけど(笑)オーラス興業で働くのもいいんだけど、私の性格の問題だと思うわ。」
確かに誰が見てもハクはこの会社のカラーに合っているような気がしました。みなみや上司のチュンさんとの関係も良好で、しっかりと周りに対して働く姿勢を見せています。他の人間の邪魔もしません。
一体ハクの何が問題なのでしょうか。
みなみ「・・・・飽き性な。」
ハク「そう!私ね!やってみて分かったんだけど、毎日同じ会社に行って同じ仕事するの無理みたいなんだわ!(笑)それでも1ヵ月位オーラス興業で事務してたんだよ一応ね!」
派遣は毎日違う現場に行くのです。毎日違うから続くそうです。
その月のシフトが出て、その新しい場所に行くのが楽しくてしょうがないそうでした。
にしま「なるほどなぁ。残念だな、でもそれで仕事が続くんならそれでもいいかも。新聞で見たけど最近直ぐに仕事辞めちゃう若者多いそうだから。」
ハク「みなみが結婚でもしてくれたらね!あの事務所で事務員でもいいんだけど!」
みなみ「なんで夫婦で同じ会社に勤めなきゃいけねーんだ、家でも会社でも一緒じゃねーか!何故24時間一緒に居なくちゃいけねーんだ!」
ハク「だって、ここの大将も夫婦で経営してるよ!」
みなみ「それは先代からの生業だからだ。それに俺が結婚したら嫁さんは働かせない。・・・もうその肉置いたら仕事に戻れ、にしまに仕事を教えないといけないから。」
丁度他のお客さんに呼ばれてハクは入り口側に戻っていきました。。
にしま「おい、良い話じゃねぇか。冗談かもしれないけど結婚してやれよ(笑)」
みなみ「派遣の仕事をしてる人間の中で、ああいう飽き性人間は少なからず居る。結婚しても飽きるだろ直ぐに。」
にしま「そこもそうなのかなぁ・・・・。」
煙草を吸いながら、ビールを飲む。
ここに食事をしに来ているお客さんもスーツ姿や作業着の人が多数いました。仕事帰りの人が多いと思われました。
みなみ「うちの会社はここのお客さんみたいに、様々な所に派遣してる。工場、サービス業からちょっとした接客業までな。ハクみたいな人間からしたら、1日として同じ日は無いし、楽しくてしょうがないだろうな。」
続く。