サラマンダー・スパイラル ~旅立ち~

サラマンダー・スパイラル

これまでのお話

↓ ※下記の続きです。

スポーツ王にも諦めないといけない日があった!!
お疲れ様です。 先日、子どものエイルジュニアと焼き肉に行った時に、やたらと沢山食べるようになり、会計を見た時に度肝を抜かれてしまったエイルです。 美味しいものは美味しいという事がわかったようで、それをひたすらにジュニアは食べていました。...
スポーツ王にも諦めないといけない日があった!!②
前回の続きです。 柔道を引退し、家で昔録画したお笑い番組を見ていた所、急にスーツ姿のみなみがやってきました。 久々に旧友のみなみと出会い、2人で懐かしみながら部屋でゆっくり煙草を吸っていました。 にしま「・・・よく帰って来...
スポーツ王にも諦めないといけない日があった!!③
前回の続きです。 久しぶりに会った旧友のみなみ。にしまさんの家でお酒を飲みながら思い出話に花を咲かせるが、共通の話題である野球の話をした所、みなみは急に声を荒げました。 一体どうしてしまったのだろう・・・・。確かにお互い大人になった...

※続きの作品ですので必ず読んでからこちらをお読みください。

 

尚、こちらの作品は「小説家になろう」でも投稿しております。

推敲版『サラマンダー・スパイラル』はこちらです。

ストーリー内容はそのままで、より読みやすくなっておりますので、是非下記URLを♪

感想、評価も心よりお待ちしております

サラマンダー・スパイラル
ESN大賞7 アニセカ小説大賞1 キネノベ大賞12 シリアス 男主人公 現代 職業もの 123大賞5 アンダーグラウンド 反社会 金融 派遣 金 お酒 社会 残酷な描写あり

 

 

 

 

 

 

駅内にあるうどん屋でうどんを食っているスーツ姿のにしま。

 

 

にしま「ズルズル!!・・・」

 

大将「にしまくん、追加の肉うどんお待ち!!サービスでわかめも多めに入れといたから!!・・・久々に来てくれたね!お父さんにお土産用意してるから、持って行ってよ。」

 

うどん屋の大将はテイクアウト用のうどんを用意してくれました。父親と大将は友人です。

 

直ぐ横の席に座っているスーツ姿でオールバックの男が叫ぶ。

 

みなみ「おい!・・・何杯食うんだよ!!おじちゃん!!甘やかさないでいいから!!」

 

幼馴染のみなみでした。

 

大将「みなみくん、甘やかしてない。俺は嬉しいんだよ。子どもの頃から知っている子どもたちがこうして大人になって食べにきてくれる事が。」

 

みなみ「そんなもんなんかなぁ。俺にはあまりわからんなぁ。」

 

大将「・・・いつか分かる日が来るよ。」

 

 

「自分で稼いだお金で駅内のうどん屋で飯を食べる。」

 

 

地元に帰って来てからずっと思っていた小さな夢が叶いました、ようやく自分の決めたスタート地点に立てたような気がして、なんだかとても心が晴れやかでした。友人のみなみは早々に1杯食べ終わり、俺はもう5杯目。・・・最低6杯は食べたいです。

 

うれしくて食欲が止まりません。もしかして大将の涙が入っていたのでしょうか、2杯目から少し塩気が増したような気がします。

 

もう自分自身は、悲しくて泣くことはないのですが、何歳になっても嬉しくてこんなに綺麗に泣く事が出来るのだと思うと、人間は捨てたものではありません。

 

俺の涙腺はどこに行ってしまったのでしょうか。

 

 

地元に戻りハトの餌のような食事を毎日していましたが、ようやく人間らしい食事が出来たような気がしました。

 

金が無かったのです。何故物がありふれた世の中でしっかりとした食事にありつけないのでしょうか。

とても悲しいですが、これが現実です。お金がある人間はご飯を食べることが出来て、お金が無い人間は食べる事は出来ません。

 

これが資本主義なのかと思うと、この国で過ごす事の厳しさを痛感したような気持ちになります。そもそも地元もこの国も好きかと言うと、そうでもありません。

 

でも産まれてしまったからには仕方無いのでとりあえずこの国で生きています。というのが正しいのでしょうか?

 

柔道を引退して、今ここに帰って来て、自分のお金で親父と子どもの頃に食べたうどんを食べることが出来ました。

 

忙しい両親でしたが、その両親は俺に飯を食わせてくれました。この昔から変わらない味のうどんを食べさせてくれました。まぁ・・・・味が美味いかどうかは別ですが・・・。

 

 

知っている人のお店で金を使う事が嬉しいのです。それが社会人である本当の意味であるのかもしれません。

 

爪楊枝で歯をいじりながらみなみは語ります。

 

みなみ「にしま、何故ここで飯を食おうと言ったのか俺にはなんとなく分かったよ。単純にここで飯を食う為に仕事を引き受けたってことだよな?」

 

にしま「・・・ズルズル!!・・・・だって飯を食う為に仕事をするんだから当たり前だろ。それが勤め人ってもんだろ。しかも知り合いの店でお金を使ってるから最高な話だ。」

 

 

 

 

うどんを食べ終わりました・・・。食べ終わってしまいました・・・・。

 

 

・・・もう・・・なんだか・・・・この町には未練がないかもしれません・・。

 

 

大将「にしまくん、みなみくん。また来てよ。いつでも待ってるから。潰れなければね(笑)」

 

にしま「絶対辞めないでよおじちゃん。ごちそうさま。滅茶苦茶美味かった。大将に会った事親父に言っとくよ。」

 

机に5000円札を置き、大将から土産を受け取り、店を後にする2人。

 

 

大将の笑顔に曇りはありませんでした。スーツ姿でいきなり現れた顔見知りの俺達に対して、何年分か老けた顔で、嬉し泣きしながら暖かく迎えてくれました。

 

 

勤労とはなんなのでしょうか。大将の生きがいとはこういうことなのでしょうか。

 

 

 

駅最寄りのコインパークに到着する2人。

 

みなみの愛車である、黒色のBMW。7シリーズ。

 

みなみ「おい、頼むね。」

 

鍵を渡される。

 

にしま「は?・・・なんで俺が運転しないといけないんだ。」

 

みなみ「当たり前だろ、会社では俺は先輩だぞ?今日から俺がにしまに仕事を教えるんだ。運転くらいしてくれよ。俺が横で色々と話して教えるやるから。」

 

にしま「いや全然運転は良いんだけど、保険とかちゃんと入ってる?お前の車がボコボコになったらどうしようかと思ったら申し訳なくて。この車の修理代を払えるほど俺はまだ稼いで無いような気がする・・・。」

 

100円を借りるわけではないので、運転を断固拒否。

 

頭をかくみなみ・・・・。

 

みなみ「・・・・・・俺が運転するわ。今日だけだぞ、横で車幅覚えろ。」

 

 

助手席にドカッと座るにしま・・・・・。

 

車がゆっくりとパーキングを出ていきます。

 

 

にしま「・・・しっかしみなみ、どこに向かうん?スーツ着て来いと言われたから買ってきたけど。」

 

みなみ「うちの会社だ。にしまがこの度正式入社になるから、俺の上司を紹介しようと思ってる。」

 

首を傾げる・・・。

にしま「あっ・・面接の時に駅前の喫茶店で会った人の事かな?」

 

みなみ「いや、あれは総務の人間だからまた違うわ。」

 

にしま「へぇー色んな部署があるんだな。」

 

みなみ「俺達は営業だ、・・・これから忙しくなるぜぇにしま。」

 

みなみの顔つきが変わります。

 

にしま「忙しくなくっちゃ。これまで休んでたんだから。・・・・俺の人生なんかギュっとしたら10年くらいなもんだからな。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

少し間が空いたと思ったら運転手の相棒は突然笑い出しました。

 

 

みなみ「はっはっは。・・・そうだよな、何年も浮世離れしてたくせに結構良い事言うなぁ。誰も助けてくれなかった今までは、しんどいのは今日だけ、今日だけを過ごそうと必死だったかもしれない。・・・しかし俺が思うに、ここからの人生には必ず見返りがある。スポーツをしていた頃のように、やった分の実績が出ない今までとは違うってことだ。非常にわかりやすい形で見返りが来るだろう。・・・そういえばさっきにしまが言った通り、勤め人ってのは食う為に仕事やってるんだ。今のその心のままで行こう、お前が思う世界が待ってる、目指せばいい。俺も別にお前に賛同しているわけじゃあないけど、そうであるべきだと思ってるから。・・・気の利いた言葉が浮かんで来ないけど・・・・・初志貫徹で最後まで行こう、にしま。産まれてから死ぬまで初志貫徹で過ごせる人間なんてそうそう居ない。曲げるなよ、その心を。」

 

 

みなみは俺がさっき言った言葉をまるでなぞるかの様に、そして芯に染み込ませるかの様に語りました。

 

にしま「・・・そうだな・・・。」

 

車の窓越しに地元の景色を眺める・・・・。次に帰るのは何年後になるだろうか・・・。

 

みなみ「しかしあれだな、・・・こうやって2人っきりで車に乗るのは実は初めてだな。大体両親が居たり・・・・・・」

 

にしま「だなぁ・・・・であいつがさ・・・・・・」

 

車中で会話が続きます・・・・。

 

 

運転をする友人の横顔は、どこか悲しそうでしたが、前を向く目だけは誰よりも生きていました。

・・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・

 

 

 

 

地元に帰って、頼ったのはこのみなみという男でした。

 

幼馴染であり、最愛の友を仕事仲間にはどうしてもしたくはなかったのですが、結果的に頼ったのはみなみでした。

 

みなみしか頼る人間が、みなみしか言っている事を少しだけ信用できる人間が、周りに居ませんでした。

 

次話へ続く

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